تسجيل الدخولあきらは他人との関りが薄かったせいか性欲は控え目だった。
とは言え時折、間欠泉のごとくに欲情が噴き出す事もあった。 そんな時は惜しみなく散財し、とびきり高級な会員制恋人紹介所に連絡した。 そんな過去が影響したのか、彼女は“性”に関して寛容であった。***
「はぁ~楽しみねぇ~、どんな子が来てくれるのかしら?かわいい子が良いわね」
我が事のようにウキウキとお母様がはしゃいでいますわ。「そうですわね」
それにつけても胸の谷間が・・・
我が母ながら「やはりタチアーナ様は王都で降霊なさるのでしょうか?」
お母様のご実家であるチャーフ公爵家。
その領地持ちの貴族と言うのは要するに大名ですわ。
領内での徴税権や自治権を持っていますの。 大貴族なら自前の軍隊も編成していますわね。 チャーフ家も領地持ちの大貴族ですのよ! 王国の南、かつてコラゴと言う名の帝国が有った場所ですの。400年ほど前に我が国と戦争が起こりましてね、
ボコボコにされて滅びましたの。 領土は分割されて、戦の功労者に分配されましたのよ。 王妃の従兄弟で司令官だったローベルト伯爵が首都を陥落させましたの。 その功績で公爵位を叙爵されて、チャーフ公爵となりましたの。 チャーフと言うのはその首都の名ですわ。オバルト王国には3箇所に祭壇がありますの。
一つは首都エルベに、もう一つはダモンに、そして最後の一つがチャーフに。 自領に祭壇が在るなんて、そりゃ~もう特別な事ですのよ! 当然チャーフ家は代々そこで降霊の儀を執り行っていましたの。 初期のチャーフ家は軍閥でしたのよ。ところが代が下るに連れて国政に携わる様になって行きましてね。
今ではすっかり官僚貴族ですわ。 代々大蔵省税務長官を務める家系ですのよ。 領軍も小ぢんまりしたものになりましたわ。「そうでしょうねぇ。
イリアムは領地に関心が無いものねぇ。 見栄っ張りなのよあの子は。 昔からそうなの。 あれがチャーフ公爵家の跡取りだと思うと悲しくなるわ。 バロッサはお母様の言いなりね。 お母様はイリアムに甘くて困るわ。 カルアンの方が余程しっかりしているわ。 お父様もイリアムを廃嫡してカルアンに継がせれば良ろしいのにね。 あなたもそう思うでしょう?」「はぁ、さようで御座いますか・・・」
イリアム叔父さまはお母様とは仲が悪いけれど姪の私には優しい。
王都のお屋敷に遊びに行くとそれはもう大歓迎して下さいますのよ。奥様のバロッサ様は家格の低い家から嫁がれたので気の毒なくらい控え目ですが、
夫婦仲は良好で虐げられている様には見受けられません。 私の知る限りは凡人ですけれど、 内務官僚としてそれなりの地位にいるのだから無能ではないでしょう。それよりもカルアン叔父様の方がヤバイと私は思っていますの。
私は知っている。 あの方はロリコンですわ! 私を性的な目で見て股間を硬くしているし、 周りの目を盗みやたらと触れてくる。でも嫌いではありませんの。
ほの暗い罪悪感の
王国騎士団に所属しているのですが、あまり活躍しているとは聞きませんわね。
縁談から逃げ続けていて未だ独身である為に同性愛者かと疑われていますの。お母様は少女の頃から騎士や軍人に憧れていたそうですの。
そんなものだから子供の頃から騎士志望だった叔父様をとても
私はチャーミィの貞操が心配でならないので、
次に叔父様とお会いした折にはしっかりと釘を刺して置きましょう! 本当に刺したりはしませんわよ? そこまで鬼畜ではありませんわ。 尿道が血まみれになってしまいますもの。それにしてもお母様のお話は長い・・・。
ついに私も10歳と成り、今年の“降霊の儀”に参列する事となりましたわ。
教会の精霊殿で貴族の家では4~5歳から精霊学を学びますの。
幼児向けの精霊学の最初のページには降霊の儀で唱える祝詞が記されていますの。 魔法が使えるなんて素敵っ! ウキウキしながら教科書を開きましたわ。 初めて目にする精霊文字。 読み方は伝えられているけれど、誰もその意味を知りませんの。 この世界の言語では無い、精霊の言葉。すらすらと読めましたわ・・・
『アナタトワタシノ ラブリーエンジェル
マホウショウジョハ オレノヨメ ツキニチカッテ オシオキヨ』日本語じゃねぇ~かぁ~!カタカナ~!
しかもオタク~~~~~~~!***
精霊教会の歴史は5千年前に遡る。
封印された大陸ムーランティスと、失われた聖地モスクピルナス。 すべてはそこから始まった。当時は各地個別に精霊信仰が土着していた。
精霊の姿は見えていたので、それを信仰の対象とするのは自然な成り行きだった。 しかしコミュニケーションを取る事は出来なかったので、 ただ崇め奉り祈りを捧げるだけのものだった。そこに現れた最初の転生者である4人の日本人が、
初めて精霊と契約して魔法が使えるようになった。 そして教団を作り人々に魔法を広めた。 呪文が日本語であるのはそう言うわけだ。 魔法の力はその他諸々の宗教を駆逐した。 やがて宗教は統一されて今の精霊教会となった。今日はエルサーシアの降霊の儀が行われる。
しかし朝からログアード領都アセムのダモン教会。
その精霊殿前には、今日儀式を行う貴族籍の子供が集まっていた。 親たちは講堂の中で待機し誰もが興奮を抑えきれず紅潮した顔で、これから出会う精霊に思いを馳せている。
顔見知りを見つけて話を弾ませていれば凍えた体もほぐれていった。 しかしそんな中にあっても彼女は独り人だかりを避けて別に不機嫌と言うのでは無い。
元々がそんな顔なのだ。***
あれを言いますのねぇ~
言わないとマズイですわよねぇ~おそらく・・・
と言うよりもまず間違いなく今日、彼女と再会するでしょうね。 もっと感動的に出会いたかったですわ。 あの一行を見てからの6年間は苦悶する日々でしたわ。 精霊文字も言語も日本語でした~ なんで~?オレノヨメ?何それ~
こじらせ童貞ですわ~ 他にもピカールとかヒエールとかヒネルトジャーとかですわよ! もうスベラーズと同じセンスですわっ! ド昭和ですわよっ!「エルサーシア・ダモン・ログアード」
「はい司祭様、どうぞ良しなにお願い致します」司祭様から名を呼ばれましたわ。
いよいよ私の番が来た! 実はここの司祭様は私のお「では参りましょう。緊張してはいませんか?お手洗いは済ませましたか?」
相変わらずの子ども扱いですわ。
「お気遣い痛み入ります。ご心配には及びませんわ」
「まぁ!さすがは私の孫娘ですわねぇ。さぁさぁまぁここまで来てしまえば覚悟を決めるしかない。
やってやろうではありませんか! 本場の実力を見せて差し上げようではありませんか!精霊殿の扉を開き中へ進むと一段高く四角い祭壇がありますの。
オパールの様に色めき輝くそれは人の作った物では有りませんのよ。 はるか太古の昔よりこの場に鎮座して居ましたの。 原祖精霊が作ったと言われていますわ。ゆっくりと階段を登って中央に立ちました。
胸に両手の『アナタトワタシノォ!ラブリーエンジェルゥ!
マホウショウジョハァ!オレノヨメェェェェ! ツキニチカッテ~~~! オシオキヨッ!』精霊教のシンボルである三日月マークに狙いを定め、
ビシッと音がしそうなくらいにお仕置きポーズを決めてやりましたわ!ビカッ!!!
「うぎゃっ!め、目がぁ~!目がぁ~!」
眼が潰れるかと思う程の光が閃いて直撃を喰らいましたわ!
少し漏れましたわよっ! 先にお手洗いへ行けば良かったですわ~ 顔を抑えながら悶絶していると懐かしい声が聞こえて来ました。「ようやく会えましたね。どうですか?この世界は」
「どうもこうもありませんわよぉ~なんですの?これはぁ~ようやく視力が戻って彼女の姿が見えました。
「マジカルプリンセス・ルルナですわよねぇ・・・」
ロイヤルムーンステッキも装備した完全体。深夜枠のオタク様ご用達アニメ。
過激な表現が児童ポルノ認定されて放送打ち切りとなったキワモノですわ。「ルルナと呼んで下さいねサーシア」
色々聞きたい事も言いたい事も有るけれど、
今日はもう帰りたい・・・ですわ・・・精霊には幾つかの階位がある。 生活魔法と呼ばれる出力の小さい魔法を受け持つ、いわゆる“精霊”。 状態変化や空間制御などの特殊魔法や、 対象を破壊する攻撃魔法を可能にする“上級精霊”。 さらに限定が解除された魔法を発動できる“特級精霊”が存在する。“魔法”とは言っても、それは物理法則を無視しているわけではない。 極めて高速に辻褄を合わせているのだ。 その処理能力に精霊ごとの差があると言う事である。 どのクラスの精霊と契約が出来るか? それは契約者の法力強度に左右される。 各精霊の能力に見合った親和性が必要なのだ。基本的には先天性のもので、遺伝要因が大きい。 背の高い親から生まれた子が、また長身である確立が高いのと同じだ。 まれに突然変異もあるが、めったに起こるものではない。現状で特級精霊に該当するのは唯一ルルナだけ。 また契約可能な親和性を有しているのもエルサーシアただ一人である。 意図的に操作された突然変異と言って差し支えない。あくまでも現段階では。***帰れませんでしたわ・・・それはもう大騒ぎになりましたの。 お祖母様は気を失われて救護室に運ばれ、お父様は私を庇う様にして抱きしめ、 お母様は「まぁ可愛い!まぁ可愛い!」と連呼しながら小躍りしていますの。 子供達は片隅に寄り集まり小声で囁き合い、大人達が盾となって囲っていますわ。「其方は精霊なのか?」 「はい。私はサーシアの契約精霊ルルナです」両手でステッキを胸の前に持ち小首を傾げてルルナは答えました。 んまぁ~あざといですわ~「人型の精霊・・・こんな事が・・・」お父様はかなり戸惑っておられる様ですわ。 精霊の姿は虫や小動物型が殆どで、せいぜい猛禽類くらいですものね。 大型の哺乳類型も、ましてや人型なんて聞いたこともありませんわね。 次の行動を判断しかねておられます。 お母様は体をくねらせながら、 「まぁ!ルルナちゃんと言うのね!まぁ素敵!お名前も可愛いわ!」 徐々に近づきながら抱きしめるタイミングを覗っていらっしゃいました。このままでは埒が明きませんから私がどうにかしないといけませんわね。「お、お父様・・・お城に帰りとうございますぅ」 「あぁ、そうか、そうだな。うむ、一先ず帰ろう。 母上は・・・いないか
あきらは他人との関りが薄かったせいか性欲は控え目だった。 とは言え時折、間欠泉のごとくに欲情が噴き出す事もあった。 そんな時は惜しみなく散財し、とびきり高級な会員制恋人紹介所に連絡した。 そんな過去が影響したのか、彼女は“性”に関して寛容であった。***「はぁ~楽しみねぇ~、どんな子が来てくれるのかしら?かわいい子が良いわね」 我が事のようにウキウキとお母様がはしゃいでいますわ。「そうですわね」それにつけても胸の谷間が・・・ 我が母ながら艶めかしいお方ですわ。「やはりタチアーナ様は王都で降霊なさるのでしょうか?」お母様のご実家であるチャーフ公爵家。 その嫡男の三女で、従妹のチャーミィも私と同い年ですが、 2歳からずっと王都で暮らしていますの。 貴族にも色々と違いがありますのよ。 爵位の上下は勿論の事、領地の有無も大きいですわね。領地持ちの貴族と言うのは要するに大名ですわ。 領内での徴税権や自治権を持っていますの。 大貴族なら自前の軍隊も編成していますわね。 チャーフ家も領地持ちの大貴族ですのよ! 王国の南、かつてコラゴと言う名の帝国が有った場所ですの。400年ほど前に我が国と戦争が起こりましてね、 ボコボコにされて滅びましたの。 領土は分割されて、戦の功労者に分配されましたのよ。 王妃の従兄弟で司令官だったローベルト伯爵が首都を陥落させましたの。 その功績で公爵位を叙爵されて、チャーフ公爵となりましたの。 チャーフと言うのはその首都の名ですわ。オバルト王国には3箇所に祭壇がありますの。 一つは首都エルベに、もう一つはダモンに、そして最後の一つがチャーフに。 自領に祭壇が在るなんて、そりゃ~もう特別な事ですのよ! 当然チャーフ家は代々そこで降霊の儀を執り行っていましたの。 初期のチャーフ家は軍閥でしたのよ。ところが代が下るに連れて国政に携わる様になって行きましてね。 今ではすっかり官僚貴族ですわ。 代々大蔵省税務長官を務める家系ですのよ。 領軍も小ぢんまりしたものになりましたわ。「そうでしょうねぇ。 イリアムは領地に関心が無いものねぇ。 見栄っ張りなのよあの子は。 昔からそうなの。 あれがチャーフ公爵家の跡取りだと思うと悲しくなるわ。 バロッサはお母様の言いな
その国で生きる人々はその世界を“イ・デアル・アー”と呼んだ。 古代の言葉で“空・大地・海”と言う意味だ。 彼らはそこが惑星であり、球体である事をまだ知らなかった。現段階で認識されている大陸は三つ。最大の面積を持つがその殆どが未踏の地 “エギ・キキル・デアル”。南北に長く湾曲した “ファ・ジンムーラ・デアル“。歪ではあるが円形に近い ”ポーラ・タエタト・デアル“。実はもう一つ大陸が有り四大陸の星なのだが、 誰もその名を知らず、何処に在るかさえも分からない。 一部の地域で”封印されし呪われた大陸”として伝承されるのみである。この世界には“魔法”がある。 精霊と契約し精霊言語を用いて発動する。かつて高橋あきらであった少女は、名をエルサーシア・ダモン・ログアードと言う。 辺境伯家の第三子であり長女となる。 北方のラーアギル山脈一帯に暮らす戦闘民族ダモン。 オバルト王国の北壁を守護する軍閥だ。 王家とは血縁でもあり良好と言える関係だが、どの派閥にも属さない自治独立の気風が強く、 中央の宮廷貴族達からは疎んじられている。さて、 数奇な巡りあわせの糸に導かれた少女は、 この世界でどのような生を紡ぐのであろうか。***なんやかんやで、もうすぐ10歳。 すっかり引き籠りですわよ! 彼女の居ない人生が、こんなに心細いとは・・・ みんなよく平気で居られますわね。 身内以外の者と話なんて出来ませんわよ。部屋から出ると心が不安で一杯になってしまいますの。 屋敷の外へは滅多に行きませんわ。 年に一度、王都へ行く時くらいですわね。 国王陛下との謁見がありますの。 新年の挨拶ですのよ。 我がダモン家は高位貴族ですの。その折りは、お母様のご実家に泊めて頂いて親族の顔合わせを致しますの。 同い年の従妹が居ますのよ。 三姉妹の末っ子。 タチアーナって言いますの。 チャーミィと呼んでいますのよ。長女はアルマーナ、二女はジュリアンヌですの。 上の二人はとても意地悪で、行くと必ず嫌な思いをさせられますわ。 まぁ、子供のする事ですから大したものではありませんけれどね。私が泣けば気が済むようですから、そうして差し上げますの。 でないとしつこ
上も下も無く、右も左も区別出来ず、 前も後ろも存在しない世界に彼はただ居る。見えているのでは無い、聞こえているのでも無い、 感覚せず知覚のみ有る。 死の瞬間や時間の経過など一切不明だ。しかし彼は自分がここに居ると言う自我を認識した。***(僕は死んだ筈だよね?) 『えぇ、死亡しました』(君も居るんだね) 『えぇ居ますよ』(君は誰?神様とは違うよね) 『私が何者であるかと言う質問は初めてですね』(あぁそうだね。居るのが当たり前だったからね) 『親和性の強化が目的でしたからね。申し分のない成果を得ました』(どーゆー事?ちゃんと説明してくれないかな) 『当然そのつもりですよ。今なら理解が出来るでしょう』彼女曰く、 この世の全ては、詰まるところ“情報”であると言う。 情報の本質はネットワークであり、 絶えず流通する事で存在たらしめているそうだ。彼女はネットワークの一部であり、 僕とコンタクトする為のアプリケーションなのだとか。 彼女が言うには人間を含む生物も物質で構成されたプログラムであって、 自覚がないだけで根源的には同じものらしい。情報の収束したものがエネルギーであり、 それの凝固したものが物質であるそうだ。 つまり膨大な量の情報が詰まったパッケージが”物質”なのだとか。本来、情報を操作するのに物理法則は必要ないらしい。 いわゆる“観念”によって情報を操作する世界が根源として存在しているそうだ。 しかし三次元の世界で情報は物理法則の支配を受ける。視覚的情報は光に。 聴覚的情報は分子の振動に。 全ての情報が素粒子の運動に置き換えられて伝わるのだ。 物理法則とは、その情報パッケージを扱う為の規則だそうだ。さぁ~っぱり分かりましぇ~ん! 本来の僕は”中の下”ですよ? さらに理系は”下の下”だよぉ~ん。 でも観念?念力みたいなもんかな? だったら文系になるの? 違う? 何系?彼女の本体である観念世界は予定調和に満たされていて変化をする余地が無い。 つまり流通させるべき情報が無いのだ。 永遠に更新されない情報。 そんなネットワークに存在意義が有るのか?有る訳が無いっ!しかし物質世界を観測する事によって無尽蔵に情報の所得が可能となる。 観念世界と物質世界は共依存の関係だ。
ベージュ色のカーテンが夏の日差しを和らげて程よく室内を照明している。 ホテルの一室の様だが介護ベッドを囲む医療器具や、 時折に来る看護師の足音が病室ですよと告げる。 広い個室を見回しても見舞い品の一つも無い。 この部屋の扉に彼の名札が貼られて半年が経つが、 誰一人として訪ねて来た者は居ない。脳幹に出来た悪性腫瘍だ、治療は不可能らしい。 代理人の弁護士以外は誰にも知らせなかったが、その必要も無かった。 親類縁者とは絶縁している。 父母が健在かどうかさえ知らない。 友と呼ぶ者も恋人も居ない天涯孤独のはぐれ者だ。二十代後半あたりから人付き合いを避ける様になった。 他人との関わりが煩わしい。 人嫌いと言うよりは、必要性を感じなくなったのだ。 ネットの繋がる環境さえあれば事足りる。余命宣告を受けてすぐに手続きをした。 先ずは介護施設への入居だ。 続いて財産の処分に関して法律事務所との契約。 遺言執行者として後始末をして貰う為だ。人格は破綻しているが、金に不自由はしていない。 億単位の遺産も渡す相手の無い泡銭だ。 財団にするには少な過ぎ、さりとて捨てるに目立つ額。 結局は入居施設の所在する自治体に奨学金事業として寄付する事にした。 もし両親が生きていたら、法定遺留分を除いた全額をそれに当てる。 別に善意からでも無い、担当の弁護士が勧めたからだ。 他人の人生になど興味は無い、目の前で子どもが倒れても通り過ぎるだろう。 ろくでなしの自覚は充分にある。 全ての調査と手配は死後に開始する契約とした。 もちろん契約書は公証役場に届けてある。 基本的に人を信用しない。一通りの段取りが整ったのは二月、梅の花の見頃。 見納めと思って最後の遠出をした。 南高梅の産地、和歌山県南部町の南部梅林だ。 ちょうど満開だとの事だが、桜に比べると地味なものだ。 密度が薄いのである。 だがひと枝の清楚な姿は茶人の好む侘び寂びの趣がある。 今の自分にはこの方が良いなとあきらは満足した。そして昏睡状態に陥って三日目。 今日この時、彼の人生は静かに閉じようとしていた。***(大した苦労も・・・努力もしなかったな・・・ 手ごたえも充実感も・・・無いな・・・)『そうですか?それは
三姉妹は母の部屋で遺品の整理をしていた。大聖女の葬儀ともなると一日や二日では終わらない。 一言お別れのご挨拶をと弔問客が連日連夜の大行列をなして訪れた。 ガラスで覆われた棺の中で、ただ目を閉じて昼寝でもしているかの様に、 その口元は微笑みを浮かべている。三日の予定が五日に、それでも途切れぬ民衆を追い返すわけにも行かず、 保存は万全にして痛む事も無し、母ならばきっとそうするだろうと、 最後の一人が振り返り、また振り返り城門を出ると十日目の夕日が落ちていた。「これは貴方が五歳の時に差し上げたものね」長女が見つけたハンカチには、如何にも子供が作りましたと言いたげな、 だからこそ可愛らしい刺繍が施されている。 母の愛したバラの花(らしきもの)が(かろうじて)咲いている。 それを見た二女は治まっていた涙が、また溢れ出して来た。「あ゛~ぞうでずばぁ~!ごでばぁ~ わ゛だぐじがぁ~!お゛が~ざばに゛ぃ~ う゛う゛う゛う゛~~~」引き出しの奥から見つかる耳飾りの片方の様に鮮やかに蘇る懐かしくも愛しい、 嬉しくてそして哀しくなる記憶。「これ!それで拭いては駄目よ!こちらを使いなさいな」 「あ゛じがど~~~」 「お姉様は一番のお母様っ子でしたものねぇ」三女は泣き虫な姉の頭をそっと撫で、しみじみと部屋を見廻す。 亡き父母の愛で満たされていた温かな空間も、 やがて訪れる沈黙を受け入れているように思えた。「そう言えば宮棚はまだ見て無かったですわね」寝台の枕元に設置された戸棚を指さす。 普段は使う事のない、でも何か特別な思い入れの有る。 そんな物を入れて置く所だ。「そうねぇ、何か有るのかしら?」長女が寝台に登り、そろりと小さな扉を開く。 中には一通の手紙が入っていた。「これは・・・」 「まさか!遺書?」 「お゛が~ざばぁ~~~」丸いテーブルの中央に手紙は置かれ、それを三姉妹が囲んでいる。「お、お姉様、開けて下さいましな」 「そ、そうね、開けるわよ!」 「お゛が~ざばぁ~~~」長女が恐る恐る手紙を開く。「これは・・・呪文ね・・・」 「呪文?」







